[追跡・神奈川]横浜市大改革 独立行政法人化で論争

「Mainichi INTERACTIVE」から

[追跡・神奈川]横浜市大改革 独立行政法人化で論争
  

◇累積負債は1140億円、「廃校」も選択肢に

 ◇「拙速」「リスク高い」の声

 横浜市立大学(同市金沢区)の改革を巡って、学内が二分している。「もう一度建学する覚悟で改革の具体案を作ってほしい」と迫る中田宏市長。小川惠一学長をはじめ、市側の方針に従う大学関係者がいる一方で、「拙速ではないのか」「独立行政法人化が先走りしすぎてはいないか」と、疑問を呈する声も上がっている。【広瀬登】

 ■市長の方針■

 市大の累積負債は1140億円(02年度)、一般会計からの繰入金は年間240億円に上る。厳しい財政状況を受け、「市立大学の今後のあり方懇談会(あり方懇)」(座長・橋爪大三郎東工大教授)は2月下旬、「現状のままで存続する道は、全く考えられない」との答申を出し、「大胆な改革で生まれ変わり、存続する」「廃校とする」などの選択肢を市に突きつけた。

 中田市長は今月7日、小川学長に市大の独立行政法人化を念頭に置いた改革プランを10月までに策定するよう要請。市大側と市側がそれぞれ「市立大学改革推進・プラン策定委員会」と「横浜市大学改革推進本部」を設置し、改革へのスタートを切った。商学部、国際文化学部、理学部を統合し、教育に重点を置いたリベラルアーツ・カレッジ▽市や市民の課題とニーズに寄与する大学▽経営を担当する責任者と教育研究に責任を持つ学長の分離を目指すという。

 ■見えぬ将来像■

 改革の方向性を疑問視する大学関係者も少なくない。あり方懇の答申に疑問を持った市大の教員や学生、市民らにより3月、「市大を考える市民の会」が結成された。

 その一人、理学部の一楽重雄教授は「学部統合というが、はっきりとした将来像が見えない。大学院の博士課程の整備が、今やっとできたばかり」という。また、経営責任者と学長との分離についても「学問の自由と大学の自治が担保できるのか」と訴えている。さらに、「答申に示されている学費の値上げは学生のためにも避けたい」「350万人都市の横浜市の大学に年間240億円の出費は大きくはないのではないか」など主張は尽きない。

 また、ドイツ文学講師で「市民の会」の遠藤紀明副代表は「答申は大学改革へのいい機会」としながらも、「歴史ある大学を変えるプランを作成することが、半年で可能なのか。市民ニーズに応える大学を目指すならば、市民全体を巻き込んだ論議が必要」と語り、改革スケジュールを「拙速」と批判する。さらに「教育への投資は歴史的に見た時、大きな社会的投資」とし、「大学は営利企業ではない」と話す。

 ■基礎研究は?■

 中田市長は「自主的な大学運営が可能となる一方、責任ある執行体制が確立され、より優秀な人材の確保も可能となる」と独立行政法人化を念頭に置いている。

 これに対し、商学部の藤山嘉夫教授は「独法化されると、大学は中期計画を策定しなければいけないが、短期間に実現しそうな研究課題ばかり取り上げられ、本当にチャレンジングな研究を盛り込めないのではないか。基礎研究つぶしになりかねない」と指摘。遠藤副代表も「独法化された大学は、どこにもモデルがなくリスクが大きすぎる。非常勤講師など不安定な身分の教員が増えるのでは」と危惧(きぐ)している。

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 ■ことば

 ◇独立行政法人

 国や自治体から一部の行政機関を切り離して法人とし、独自運営を課すもの。現在、国会で「国立大学法人法案」と公立大学の独法化を可能にする「地方独立行政法人法案」が審議中。独法化されれば、教学と経営の分離▽教員の非公務員化▽教育研究実績を第三者評価――などが導入される。

■写真説明 改革に揺れる横浜市立大学

http://www.mainichi.co.jp/area/kanagawa/news/20030526k0000c014001000c.html